実は危ない?放置してはいけない歯ぐきの腫れ

先日、患者さんからこんなご相談をいただきました。
「なんだか歯ぐきがぷっくり腫れてるんですけど、痛くないから様子を見ていたんですが‥」
実はこの「痛くないから大丈夫」と思ってしまう方、とても多いんです。
ですが、歯ぐきの腫れには“放置してはいけないサイン”が隠れていることもあります。
そこで本日は、歯ぐきが腫れる原因と放置してはいけない理由、そして早めにできる対策についてご紹介します。

目次
1. 歯ぐきが腫れるって、どういう状態?
歯ぐきの腫れとは、歯を支えている「歯肉(しにく)」に炎症や感染が起き、組織が膨らんでいる状態のことをいいます。
腫れ方は人によってさまざまで、
- 赤くぷっくりしている
- 押すと痛い
- 出血しやすい
- 膿が出る
- なんとなく違和感がある
などの症状が見られます。
ときには痛みがほとんどないまま、静かに進行していることもあるのが怖いところです。

2. 歯ぐきが腫れる主な原因
歯ぐきの腫れにはいくつかの原因があります。
ここでは代表的な6つを紹介します。
①歯肉炎(しにくえん)
②歯周炎(ししゅうえん)
③根尖性歯周炎(こんせんせいししゅうえん)
④親知らずの炎症(智歯周囲炎)
⑤詰め物や被せ物の不適合
⑥ 外傷や噛み合わせの負担

①歯肉炎(しにくえん)
歯と歯ぐきの境目にプラーク(細菌のかたまり)が溜まり、歯ぐきに炎症が起こった状態です。
歯肉炎の特徴は、
- 歯みがきのときに血が出る
- 歯ぐきが赤く丸みを帯びている
- 軽い腫れやムズムズ感
が挙げられます。
歯肉炎の段階では、まだ歯を支える骨は溶けていません。
しっかりケアをすれば元の健康な状態に戻すことができます。
②歯周炎(ししゅうえん)
歯肉炎が進行すると、炎症が歯を支える「骨(歯槽骨)」まで及びます。
これが「歯周炎(歯周病)」です。
歯周炎では、
- 歯ぐきから膿(うみ)が出る
- 歯がぐらぐらする
- 口臭が強くなる
- 歯ぐきが下がる
- 急激な歯の痛み
などの症状が出ます。
歯周病は痛みが少なく静かに進行する病気のため、「気づいたら歯が動くようになってしまっていた」という方も珍しくありません。

③根尖性歯周炎(こんせんせいししゅうえん)
これは、歯の根の先に膿がたまるタイプの炎症です。
虫歯が神経まで達したまま放置されたり、過去に治療した歯の根に再感染が起こったりすると発生します。
症状としては、
- 歯の根元(歯ぐきの一部)がぽっこり腫れる
- 押すと痛い
- プツっとニキビのようなものができる
- 膿が出たり、引いたりを繰り返す
といった特徴があります。
一時的に腫れが引いても、膿の袋(嚢胞)が残っていることが多く、放置すると再発してしまいます。

④親知らずの炎症(智歯周囲炎)
親知らず(特に下の奥)が半分だけ生えていたり、斜めに生えていたりすると、その周囲に食べかすや細菌がたまりやすく、炎症が起こります。
- 奥の歯ぐきが腫れて口が開けづらい
- 飲み込むと痛い
- 熱が出る
などの症状が出たら、智歯周囲炎の可能性があります。
炎症が強い場合は、顎の下まで腫れて発熱を伴うこともあります。
自己判断で抗生物質を中断するのは危険です。

⑤詰め物や被せ物の不適合
古くなった詰め物や被せ物の隙間から、細菌が入り込んで炎症を起こすことがあります。
特に、歯と歯ぐきの境目が滑らかではなく段差があるとプラークが溜まりやすく、慢性的な腫れの原因になります。
また、歯の根の中の再感染によっても腫れることがあり、歯科医院のレントゲンで確認が必要です。

⑥外傷や噛み合わせの負担
硬いものを噛んだり、無意識の食いしばりが強いと、特定の歯に過度な力がかかって、歯ぐきや骨に炎症が起こることがあります。
「何かの食べ物が当たると違和感がある」「噛むとズキンとする」といった場合も、歯ぐきの腫れと関係していることがあります。

3. 放置するとどうなる?
「少し腫れてるけど、そのうち治るかな…」
そう思って放置してしまうと、症状が静かに進行してしまうことがあります。
放っておくと、次のような問題が起こることがあります。
①骨が溶けて歯が抜ける
②膿が広がり、顔まで腫れることがある
③全身への影響
①骨が溶けて歯が抜ける
歯周炎が進むと、歯を支える骨(歯槽骨)が徐々に溶けていきます。
骨が減ると、歯がグラグラして最終的に抜けてしまうこともあります。
「痛くないまま進行する」のが怖いポイントです。

②膿が広がり、顔まで腫れることがある
根の先に膿がたまる「根尖性歯周炎」を放置すると、炎症が顎や顔にまで広がることがあります。
重度の場合は「蜂窩織炎(ほうかしきえん)」という状態になり、入院や点滴治療が必要になるケースもあります。
ごくまれに、全身の感染(敗血症)につながることもあるため、腫れや発熱があるときは早めに歯科医院を受診してくださいね。
③全身への影響
最近では、歯周病と全身疾患の関係も明らかになっています。
歯ぐきの炎症を引き起こす細菌は、血流を通して全身に回り、動脈硬化・糖尿病・早産・誤嚥性肺炎などのリスクを高めることが分かっています。
つまり、歯ぐきの健康は全身の健康にもつながっているのです。

4. 受診のタイミングとチェックポイント
次のような症状がある場合は、歯科受診をおすすめします。
- 歯ぐきが腫れている、または膨らんでいる
- 押すと違和感・痛みがある
- 歯ブラシで出血しやすい
- 歯が浮いたような感覚がある
- 膿が出る・口臭が気になる
- 熱を伴う・顎が重い
これらのサインは、体が「助けて」と知らせてくれている状態。
早めに受診すれば、ほとんどのケースで腫れを治めることができます。

5. 歯科で行う治療方法
症状や原因によって、歯科では次のような治療を行います。
①歯肉炎・歯周炎の場合
②根尖性歯周炎の場合
③智歯周囲炎(親知らず)
④不適合な被せ物・詰め物
⑤外傷や噛み合わせ由来

①歯肉炎・歯周炎の場合
歯肉炎・歯周炎の場合は、プラークや歯石を取り除く「スケーリング」や、歯ぐきの奥に入り込んだ汚れや歯石を除去する「ルートプレーニング」を行います。
歯ブラシ指導や生活習慣の見直しも重要です。
炎症が非常に強い場合には、抗生物質を併用します。
②根尖性歯周炎の場合
根尖性歯周炎の場合は、根の中の感染を取り除く「根管治療(こんかんちりょう)」を行い、膿を出して殺菌・消毒し清潔にします。
再発防止のため、精密に消毒・充填することがポイントです。

③智歯周囲炎(親知らず)
炎症が強い場合は、まず抗生物質で炎症を抑え、落ち着いた段階で親知らずの抜歯を行います。
腫れが強いと麻酔も効きにくいので無理に抜こうとせず、状態に合わせたタイミングが大切です。
④不適合な被せ物・詰め物
段差や隙間が原因で腫れている場合は、新しく適合の良い被せ物にやり替えます。
歯ぐきの炎症を治してから修復すると、腫れが再発しにくくなります。

⑤外傷や噛み合わせ由来
噛み合わせを調整したり、夜間の食いしばりがある方には「ナイトガード(マウスピース)」を使用して歯を守ります。

6. 自宅でできる予防とケア
ご自宅でできるケアは次のとおりです。
①正しいブラッシング
②フロス・歯間ブラシの使用
③バランスのとれた食事
④定期的なメンテナンス

①正しいブラッシング
歯ぐきをマッサージするように、やさしく磨きましょう。
歯ブラシの毛先を歯と歯ぐきの境目に45度で当てる「バス法」がおすすめです。

②フロス・歯間ブラシの使用
歯と歯の間に汚れが残ると炎症が再発してしまいます。
歯間ブラシはサイズを歯医者に行った際に、合うものを聞いてくださいね。

③バランスのとれた食事
野菜・たんぱく質・カルシウムを意識して摂り、免疫力を保つことが、歯ぐきの健康につながります。

④定期的なメンテナンス
3〜6ヶ月に一度、プロによるクリーニング(PMTC)で歯石やバイオフィルムを除去することで、腫れを未然に防ぐことができます。

7. まとめ
いかがでしたか?
歯ぐきの腫れは、痛みがないからといって油断できないサインです。
放置すると、歯を支える骨が溶けてしまったり、感染が広がって全身に影響することもあります。
一方で、早期に発見し治療を始めれば、多くの場合は元の健康な状態に戻すことができます。
「なんとなく違和感がある」「前より歯ぐきが赤い気がする」
そんな小さな気づきこそが、歯を守る第一歩です。
ぜひ、定期的な検診で、静かに進むトラブルを未然に防ぎましょう。
お口の健康は、全身の健康への入り口です。
いつまでも笑顔で食事を楽しめるよう、家族一丸となって一緒に守っていきましょう。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。



